シドニーは現在ロックダウンですが、その直前に州立美術館で開催中のArchibald Prize展を見に行った。

これはオーストラリアを代表する肖像画展というかコンクールで、毎年数多くのエントリーがあり、ここに選ばれるというのは栄誉なことだ。
肖像画の対象は有名な人、無名な人、色々だが、作者はオーストラリア在住、というのが条件。
描かれる対象もほとんどがオーストラリア在住の人なので、あまりオーストラリアのWho & Whoに詳しくない人にとっては少しインパクトが薄く、あまり良く分からない人たちの顔がずらりと並んでいるということになってしまう。
なので私達のような外国からやってきた人にとっては、「これ誰?」という絵が多いので、ちょっと見ていてつまらないな、というのは事実だ。さすがに私なんぞはこの地に長く住んでいるので、だんだん「知った顔」というのが増えてきたけど。
それにしても、ずらりと並んだかなりの数の肖像画を鑑賞し、様々な作風の「顔」と対面する、というのはけっこう大変な作業だね。

写真のようにリアルな絵もあるし、とてもデフォルメされた絵もある。その顔の後ろ側には何が隠れているのか?何を訴えかけているのだろうか?なんてことを考えつつ肖像と「対話」するというのはなかなか面白い。
今年はこの賞が設立されてから100周年、ということで回顧展も併設されていて、これまでの話題作(問題作?)も展示されていた。100年前ともなると、やはり画風も今とは違って興味深かった。
さて、このArchibald Prize は先に述べたようにちょっと短期滞在者にとってはハードルが高いかもしれないが、同じ期間にはWynne Prize, Sulman Prize という別の賞も併設されていて、特にWynne Prizeは風景画に与えられる賞なので、予備知識がなくても楽しめるので是非おすすめ。

特にこの地に住んでいるものが見ると、「ああ、オーストラリアってこんなだよなあ…」と共感できるような作品ばかりで、なんて素晴らしい土地に住んでいるんだろう、と感動する。

そして、風景画といえばアボリジナルアートだよね。

彼らの絵というのは抽象画というか、その部族代々伝わる物語を絵にしているらしいので(アボリジナルは文字を持っていないので、絵が大事な伝承ツールとなる)、これらの絵が純粋な風景画と言えるのか?という疑問はあるかもしれないが、あのオーストラリアの広大というか、荒涼というか、厳しくも美しい自然を直感的に絵にしているんだと思う。
決して写実的ではないのだけど、オーストラリアの砂漠の上を飛行機で飛んでいて見下ろすと、たしかにこんな景色がある。
そんな絵をじっと見ていると、自分もその絵の中、風景の中にすうっと吸い込まれていくような不思議な気分になり、美術館の展示室にいるにも関わらず、自分の魂がその風景へ飛んでいくような気になる。
うーん、言葉ではうまく表現できないが、実際の絵を虚心坦懐に見ればその感覚、分かってもらえるかな…。
アボリジナルアート以外の作品では、昨年始めのブッシュファイアの後を題材にした作品が何点かあった。

破壊と再生…これもブッシュファイアが野生植物のサイクルになっているオーストラリアらしい題材だな、と感じた。
オーストラリアンアートのいま、を知るには最適のこの展示会、9月26日まで開催されている。
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